蛍光色の救世主

ぼくの好きな人は本当にすごい。

 

いい加減ウザがられそうだが、

本当にすごい。

 

みんなが羨む体、大人っぽい中にもかわいさが窺える顔、

ある種独特といっていい感性。

全てが唯一だ。

 

本当に好き。

いつかここに書くと思うが、本当にいろんなことがあった。

基本的には辛い思いをさせることが多かったが、

ぼくが辛い思いをすることもあった。

きっとこれからもあると思う。

 

その度にもうダメかな…なんて思ったりもしたけど、

でも何日かすると、彼女を求めてしまうのだ。

嫌いになることはないだろうなぁ、何があったとしても。

 

 

さて、前回はぼくと彼女の初めての夜について書いたと思う。

お互い酔っていてめちゃくちゃに夢中だったが、

それはそれは素晴らしい体験だった。

彼女も、後々話を聞く限りいい体験だったようだ。

 

 

いつだって幸せな時間は長続きしない。

その日だったか次の日だったか、

あるいは数日後だったかも知れない。

深夜寝ていると、突然携帯が激しく震え出した。

通常そんな時間に電話がかかってくることはないため、

何かの間違い電話だと思った。

 

画面には彼女の名前。

 

その瞬間、ぼくは何かよくないことが起きたことを悟った。

とりあえずその電話はやり過ごすと、程なくメッセージが送られてきた。

 

「どういうことですか?結婚してたんですか?」

 

そんな内容だったはずだ。

それを見たぼくは、彼女との時間が早くも終焉を迎えたことを理解した。

 

彼女は不倫とかそういう行為に対してアレルギーを持っていた。

いや、普通はそうだよね。あり得ないと思う。

ましてや彼女はまだ20代前半だ。

その拒否感たるや何をかいわんや、だろう。

 

 

認めざるを得なかった。彼女はぼくのFacebookアカウントを

発掘し、プロフィール欄が既婚であることを見つけたのだ。

 

でもぼくはどうしても諦められなかった。

謝罪のために一度会えないかとお願いした。

 

幸いにも彼女はそれに応じてくれた。

 

場所は駅のスターバックス、梅雨時らしく雨が降っていた。

ぼくと彼女は窓際の、そとがよく見える2人がけの席に座った。

 

細かなことはよく覚えてない。

ひたすらに謝罪をした、と思う。

水をかけられることは覚悟していた。

 

それでも、少しでも彼女との関係を続ける見込みがあるなら、

という思いで、ぼくの彼女に対する思いなどを話したはずだ。

 

当たり前だが、許してくれるはずがなかった。

当たり前だ。それが当たり前なのだ。

だからこそ、ぼくは咄嗟に隠したのだ。

 

ふと外を見ると、雨が落ち続ける地面に1匹の芋虫がいた。

初めて見る、蛍光色の芋虫だった。

 

余談だが、ぼくはカフカの「変身」が結構好きだ。

グレゴール・ザムザ。ある日虫に変身してしまった自分。

小説でも映画でもそうだが、救いようのない話の方が

惹かれることが多い。

 

ぼくは自分自身を本当にダメなやつだと思っている。

意志が弱い。何をしても中途半端。努力を怠る。

みんなが楽しんでいる時に自分も楽しむということができない。

お酒も飲めない、遊びも知らない。

 

東京での大学生活を経て、自己肯定感はかなり落ちていた。

 

そして、ぼくは1人が好きだが独りが極端に苦手だった。

常に、誰かとの繋がりを求めていた。

女性はそれを何か嗅ぎつけるのか、そういう雰囲気を出すと

構ってくれる人が何故か現れるということも、

経験則として知っていた。

 

人よりも早めに結婚して、そのような孤独感から

解放されたと思っていたが、それは大きな間違いだった。

身近に人がいるからこそ、受け入れられないとわかった時の

孤独感は強かった。

 

それを救ってくれたのが、彼女だったのだ。

一緒にいるだけで体が軽くなるのを感じた。

時間が飛ぶように過ぎ去っていった。

そんな他では得られないようなひと時をくれる

彼女を手放すことはできなかった。

 

必死に、必死に説得し、なんとか話ができる関係を

維持できた。

 

この頃にはもう首まで彼女に浸かっていたんだろうな。

そんな得難い経験をさせてくれるところから

そう簡単に抜け出せるはずがないのだ。